腸腰筋について

インナーマッスルの話をしたので、そのなかでも有名な腸腰筋について記事にしていきましょう(^^)

この腸腰筋は臨床上凄く大切な筋肉であり知らなければならない筋肉の一つです。

腸腰筋が解剖学的にどのような特性をもつ筋肉なのか?

単純に股関節屈曲運動を反復してるだけではありませんか?

特徴を理解せずにトレーニングしていると効果が弱くなります。

解剖学を完全に理解して、臨床に応用する事が大切です。

今回は解剖学の復習をして、整骨院での応用を記事にしていきます(^^)

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腸腰筋を構成する筋肉

腸腰筋は大腰筋、腸骨筋、小腰筋の3つの筋から構成されています。

小腰筋は元々無い方も多いので、この記事では大腰筋と腸骨筋にスポットを当てていきます。

腸腰筋の解剖学

基本的な解剖学を少し掘りさげていきます。

引用

起始 大腰筋浅頭:Th12~L4の椎体および肋骨突起

大腰筋深頭:全ての腰椎の肋骨突起

腸骨筋:腸骨窩上部

停止 大腿骨 小転子
作用 股関節屈曲・外旋

腰椎屈曲

腰椎の前彎を作る

側屈(片側のみの収縮)

脊柱の安定化

デルマ

トーム

L2~L4
神経

支配

腰神経叢および大腿神経

走行を見ると脊柱から小転子にかけて走行していて、体幹と下肢を繋ぐ筋肉は大腰筋だけです。

浅頭と深頭の起始があり、浅頭では肋骨突起と椎体前面から始まっているため、腰椎の屈曲や前弯等、矢状面の運動に関与し、深頭は肋骨突起から始まっているため、側屈や横ぶれの制限など前額面の動きに関与しています。

起始の違いにより、運動方向の違いに対応していることがわかります。

股関節屈曲角度における働きの違い

股関節屈曲角度 腸腰筋の働き
0~15° 大腿骨頭を関節窩に圧迫し股関節を安定させる
15~45° 骨盤の前傾・脊柱の前弯・脊椎の圧迫安定
45~90° 股関節の屈曲

0~15°では、関節窩に対して大腿骨頭を引き寄せて、股関節の安定化に作用します。

15~45°では、腰椎を前弯させたり、脊柱に軸圧をかけ圧迫させて、脊柱を安定させるように作用します。

45°から股関節の屈曲に働きます。

0~45°までは等尺性収縮や反作用が働き筋肉の停止側は動きません。45°以上が求心性収縮となり股関節が動きます。

腸腰筋の機能を高めるのならば、股関節屈曲45°以上で運動療法を実施しなければあまり効果は期待できないということが言えます。

ということは、ただ足上げをやっていても大腿直筋が働き、腸腰筋の筋力アップ効果は少ないです。

歩行など日常生活上においても股関節が45°以上屈曲する動作はほとんどないと思います。

歩行に関して言えば、立脚中期〜後期の股関節伸展によって腸腰筋が伸張されて遠心性収縮して、その張力によって遊脚期へと移行します。

腸腰筋における触診

まず大腰筋が直接触れるのか?
腹部で触れることはできません。ありえません。

こんなことを言うと
【皮膚や脂肪があるので筋肉はすべて触れれません】
と言う人がます・・・

筋肉の感覚がはっきりわかることを触れれると言ったほうがいいのかな?

よく大腰筋を腹直筋の内側からえぐりコリコリするのを触れる・・・あり得ません。

大腰筋マッサージの神話を信じている人は実際の筋肉を理解してません。

お腹の上から触ろうとすると、前腕を肘くらいまで突っ込んで分厚い腸を手でどけて、やっとです。
椎前筋なので腰椎にべったり、くっついています。

大腰筋が何とか触れるのは小転子の付着部スカルパ三角です。

====スカルパ三角は臨床上大切===
長内転筋・縫工筋・鼠径靱帯からなる
三角になるところ。

長男転勤?ほー・そうけー
《長内転筋》《縫工筋》《鼠径靱帯》
こんな覚え方もあります。

ここに大腿骨頭が収まります。

大腿骨頭脱臼の際はここが空虚となりますね。
そして、頸部骨折の圧痛の確認に対しても大切な場所です。
また、スカルパ三角では動脈・静脈・神経が通ります。
覚え方は
《内側からVAN》です。
Vは(大腿)静脈
Aは(大腿)動脈
Nは(大腿)神経

下肢の大出血があれば、このスカルパ三角を圧迫して止血することは大切です。

話がそれましたが、腹部では腸越しに大腰筋の収縮を感じることはできますが、直接揉めるような場所にはありません。

よく、お腹をマッサージして大腰筋を揉んでるという先生は大腰筋ではなく腹直筋や腹斜筋のリリースや腸の癒着がとれて結果的に大腰筋の滑走が良くなってることがあっても、直接的にアプローチはできていません。

腸腰筋の構成

大腰筋の筋肉の構成は白筋繊維:赤筋繊維(%)=50:50

赤筋繊維(遅筋)は持久的な筋収縮
のエネルギーを作り出すことに優れており姿勢の保持やマラソンなど持久力が要求される運動で使われます。

抗重力筋としての機能を鍛えるには、
早くて高負荷の運動よりも低負荷でゆっくり行う運動の方が適しています。腸腰筋も瞬発的に筋力アップするよりゆっくり鍛えて、腰椎や股関節の安定性を増す筋肉にしたほうがいいですね。

ちなみに大腿直筋は速筋:遅筋=60:40と言われています。

腸腰筋の連結性

腸腰筋は上部で横隔膜と連結していますので、腰椎の前湾に伴って横隔膜は下方へ牽引されて張力が増し呼吸が深くなります。

さらに、骨盤は前傾方向へ傾き、骨盤底筋群の張力も増します。

これによって、体幹は構造的にも機能的にも安定化します。

また、内転筋とも連結しています。

逆に言うとこれらの筋肉が固すぎたり、機能不全に陥っても腸腰筋の働きは悪くなります。

腸腰筋との筋膜連結はこちら

腸腰筋に対する筋膜リリースアプローチ

筋膜リリースの基礎はこちら

大腰筋は椎体に付着しているくらいですから腹部から直接触診はできませんが、短縮固定してしまっている方は腸や腹斜筋の癒着を剥がしておいて腸腰の柔軟性を出すアプローチは効果があります。

①.事前に股関節と腰の可動域をチェックしておきます。

②背臥位、股関節屈曲45°・軽度外転位で腹筋群を緩めた状態にする

③.腹直筋の側面から斜め下方へ押圧していきます。腹部はデリケートな部位なので、ゆっくりと痛みが出ないように指を平たく寝かせて面を広くし、押圧します

みぞおちから鼠径靭帯の辺りまで固い部位を触診したら、持続的に押圧したり筋繊維に対して横方向へ横断リリースをしてみてください。

④スカルパ三角部、大腿動脈の外側で停止部を触れることができます。拍動を感じたらおそらく大腿動脈を触れているので強く刺激してはいけません。

腸腰筋の外側では大腿直筋と隣り合っており、互いにくっつき癒着を起こしてしまいやすい部位であるので腸腰筋と大腿直筋をはがすようにリリースしてみてください。

骨盤・腰椎過前傾の人はスカルパ三角から下腹部へ向かって下から上にリリースが反応が良いことが多いです。

骨盤前方転位のスウェイバックの人には大腿から鼠径部に向かって下から上にリリース・上腹部から鼠径部に向かって上から下にリリースすると反応が良いことが多いです。

⑤アプローチ後、可動域を再検査して痛みが軽減、可動域の改善が得られたら成功です。

腸腰筋に対するエクササイズ

腸腰筋はエクササイズがとても大事です。ここまでの内容から言うと、腰椎・骨盤を前傾させた姿勢でゆっくりと低負荷で股関節45°以上の屈曲運動が腸腰筋に適しているということになります。

それをふまえて私も実際に臨床で指導している運動療法を紹介していきます。

腸腰筋に対する運動療法①

私はまず座位で股関節屈曲の運動を指導しています。

この運動は比較的簡単で、指導しやすいので、なれてない人にとてもおすすめです。

特に骨盤前方転位やスウェイバックといった腸腰筋が弱っている人におすすめです。

①.イスに座り、骨盤を起こし軽く前傾させ、顎を軽く引き前を向きます。

この時に骨盤がニュートラルなポジショニングを取ることが大事です。

PSISとASISを結んだ線が水平線よりも10°から15°程度前傾した状態(指2本分ASISがPSISよりも下にある位置)で座骨も体重が左右均等にかかっている事を意識させます。

②.鍛えたい側の足を膝を曲げたまま、股関節から持ち上げます。

この時に体幹が横ぶれしたり、腰を後傾させた代償運動で持ち上げないように注意しましょう。

ゆっくり持ち上げて、上がったところで少し止めて、ゆっくり戻します。

10~20繰り返したら逆の足も同じように行います。

なれてきた人には片足立ちで行うのも良いでしょう。

ポイントとしては、

・股関節屈曲45°以上で行う

・勢いよく持ち上げないように注意する

腸腰筋に対する運動療法②

股関節伸展させ、拮抗筋である臀筋を収縮させ、反射で腸腰筋がPNFストレッチされる運動です。

反り腰や骨盤過前傾の人におすすめです。

①.うつ伏せで股関節内旋位、膝関節伸展位とする

②.膝伸展位を保持したまま股関節を伸展させ、上がったところで少し止めて、ゆっくり戻します。

10~20回繰り返したら、逆の足も同じように行います。

ポイントとしては、

・脊柱起立筋による代償が入らないように注意する(アウターマッスルである脊柱起立筋が優位に働くとインナーマッスルである大腰筋は抑制されます)

・背筋が優位に働かないように注意し、腹圧を意識させ、骨盤を前傾させずに股関節だけで伸展させる。

・股関節内旋位にすると腸腰筋が伸ばされやすくなり、また連動性のある内転筋も働かせられます。

腸腰筋に対する運動療法③

前回の記事でも紹介しました。インナーマッスルを刺激する体幹トレーニングはこちら

この体操は腸腰筋単品ではなく、連動する筋肉も使ったり、邪魔な筋肉を反射でストレッチさせる効果のある複合的な運動連鎖トレーニングなのでとても効果があります。

①.肩幅ぐらいに足を開いて立ちます。

②軽く顎を引き、軽くお腹をへこませ、肩甲骨を外旋させるように軽く胸を開きます。(教科書的には外旋という動きはありませんが、この動きは非常に大事です。)

③.股関節の前面(両足のつけ根、鼠径部のビキニライン)を意識します。

④.遠くの椅子に座るようなイメージで股関節から骨盤を前傾させ、お尻を突き出して上体をやや前に倒します。

⑤.股関節から45°まで上体を倒したら、猫背にならないように腰と背骨を反らしながら、膝が90°に曲がるまでのハーフスクワットを行います。

⑥逆の手順で立位に戻りましょう。

10回繰り返します。

ポイントは、

・膝は爪先の少し前まで。それ以上は前に出ないようにする。

・体重は踵や爪先ではなく足の裏の真ん中に乗っているイメージで。

・お尻を突き出す時は反りすぎず、お腹をへこませ、丹田も意識する。特に骨盤過前傾の出っ尻姿勢の人は注意する。

・腰だけで反らさずに、背骨と頭も後ろに引く意識を持つ。このときに首は反らさずに、顎を引きながら前を見ておく。

・膝や腰がいたい人はやらない。

・しゃがむ時に膝が外や内に曲がらないように真っ直ぐしゃがむ。

腸腰筋にアプローチするに当たって

腸腰筋の解剖学と治療ポイントをご紹介しましたが、これらを活かすためには股関節・仙腸関節・腰椎が大切です。

それぞれの関節が固く、動きが悪い状態になっていたり、ずれて上手く機能しなくなっていた場合、腸腰筋はうまく働いてくれません。

逆もしかりです。

大腰筋の走行をもう考えると腰椎から仙腸関節と股関節をまたぎ、大腿骨に付着しています。

つまり、その間に存在する腰椎・SIjoint・股関節に制限があっても腸腰筋は適切に機能してくれません。

腸腰筋を上手く使えて股関節が機能するためには腰椎・仙腸関節・股関節がそれぞれ連動することで最大のパフォーマンスを発揮します。なのでそれらにアプローチをしても、効果が得られないようであれば、一度、股関節・SIjoint・腰椎の連動性も視野に入れてみましょう。

まとめ

・下肢と体幹を連結する唯一の筋肉

・体幹、股関節の安定性を担っている

・腸腰筋の特性からゆっくりとした速度で低負荷の運動が適している

・股関節、仙腸関節、腰椎の関係性を考慮する

最後に

適当に筋トレをさせるのではなく、腸腰筋の特性を考慮し、体質に合わせてアプローチをすることでより効果が高まります。

参考にしてみてください!

少し長くなりましたが、私には解剖学に対する拘りがあります。

1.筋肉の特性を知る事により
効率的なトレーニング法やストレッチを理論的に理解する
2.臨床上大切な事は解剖学が話せなければどこの世界でも通じない
3.解剖学を知る事により、巷にある怪しい治療法や非科学的なセミナーに振り回せられない根拠ができる。
4.治療をするうえで、解剖を知れば
リスク管理ができる《触ってはいけない場所》
5.解剖が頭に入っていれば、触診力が大幅に上がり、鑑別能力が向上する

以上が私が解剖学を大切にしている理由です。

これからも色々な記事を書いていくのでよろしくお願いします。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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