肩関節アプローチワンポイント

肩関節の痛みや損傷の原因をどれだけ挙げられますか?

全ての患者さんに同じアプローチやマッサージだけしている、腕が上がらないからとROMをガンガン行っているだけではないですか?

医療の現場で本当の治療を行うには、その人それぞれの体に合わせた仮説・検証を繰り返して原因となる組織を特定していく作業が大切です。

私も昔は、肩関節に炎症があるならまず肩甲骨を柔らかくする!と考えてしまい、ワンパターン化して可動域制限も中々改善せず悩んだ時期がありました。

そんな悩みを持つ柔整師のために、整骨院でよく見ることのあるパターンを中心に記事を書いてみます。

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肩関節に可動域制限があるとどうなる?

そもそも、肩に可動域制限があるとどうなのか?

屈曲方向へ可動域制限が起こると、生活上支障が出てQOLが下がります。

洗髪や歯磨き、洗顔、洗濯物を干したり、高いところのものを取る動作に支障が起きます。

これらに制限が起こると、日常生活が不便になり、ストレスになります。

伸展方向への可動域制限もズボンやパンツの上げ下げや、後ろポケットから財布を出す時、服の脱ぎ着にも困ると思います。

このように可動域制限が生じると生活場面で困るようになり、かばう事で代償動作が起こり、ストレスがかかり続け、慢性化すると凍結肩や腱板断裂等に陥ることも考えられます。

 肩関節は球関節ですので、3軸方向に動くことができ可動域が広い関節です。
ヒトは手を使って作業するために広い可動域が必要であり、肩関節は身体の中でもモビリティの役割を担う関節です。
肩関節の動きに関係する関節を見てみると、肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸鎖関節、肩鎖関節、胸椎、腰椎などの関節が関係してきます。
肩甲上腕関節以外は可動性が大きいとは言えない構造となっています。
肩甲上腕関節に制限が起きると、関係のある他の関節で制限を補い過剰にその他の関節に負担をかける事になります。
肩関節疾患のある方は「肩甲骨の内側が痛い」「背中が痛い」など周囲の痛みもある人をよく見ませんか?
可動性に富んだ構造ではないのに肩甲胸郭関節や胸椎で代償した結果、負担がかかって痛みを起こしていると捉えることもできます。
逆に肩関節は、他の関節の可動性が少ないため、結局肩甲上腕関節で無理やり可動性を作り出すしかなく、腱板断裂・損傷や滑液包炎などの外傷を発症しやすくなるケースが多いです。

肩関節の可動域制限の原因

一概には言えませんが、よくある間違った運動パターンの原因になるポイントを解説していきます。

筋肉の要素

①広背筋の柔軟性低下

広背筋が制限因子となることは多いと思います。

屈曲に拮抗する作用なので直接的にも制限因子となります。

腋窩を走る筋群は肩が挙がらない原因になりやすいですし、肩より下での手作業が多いと短縮固定しやすいので評価する必要があります。

短縮により上腕骨の動きを制限しますが、広背筋の深層には前鋸筋が走行していて、広背筋-前鋸筋間で癒着が起こりやすく、肩甲骨の動きも制限される事で間接的にも動きが制限されます。

また広背筋は対側の大臀筋と胸腰筋膜を介して筋膜連結しており、大臀筋が短縮、筋緊張亢進すると、大臀筋のほうへ広背筋が引かれるので、広背筋の短縮を助長してしまいます。

それと伸展時の主動作筋となります。
大胸筋と広背筋は筋膜連結しており、大胸筋の短縮固定によって直接的に肩関節の伸展が制限され、さらに、広背筋が大胸筋の方向へ引かれることで筋の出力が制限され伸展に制限が起きます。

大胸筋と広背筋の連結はこちら

②前鋸筋の筋出力低下

上腕骨の屈曲に伴って肩甲骨が上方回旋しますので、この動きが弱くなると間接的に上腕骨の屈曲に制限がかかります。屈曲制限となるだけでなく、肩甲上腕リズムが崩壊し、上腕骨が肩甲骨の制限を代償し過剰に動くことでインピンジメントを起こしやすくなり、痛みの原因にもなります。

筋出力低下が続くと拘縮も起こり、短縮したまま弱化し癒着します。広背筋-前鋸筋間で癒着が起きると、肩甲骨は外転・方向へ引かれ、そこで固まり、所謂巻き肩の状態になります。前鋸筋は、普段から使う機会が少ないのに、さらに伸張される機会を失い、癒着してしまいます。短縮固定のまま、癒着すると収縮する機能も落ちるので、屈曲に伴う上方回旋運動もより低下してしまいます。

③小胸筋の柔軟性低下

個人的には、小胸筋の柔軟性低下はかなり、大事だと思います。

姿勢の悪さにより肩甲骨が巻き肩の状態で上方回旋不足になると、小胸筋が優位に使われます。

それによって肩甲骨が前傾・内旋(教科書上は内旋という評価はないが外転とは違うこの動きを理解しておくとアプローチに役立ちます。)・下方回旋した状態で固定します。

小胸筋が短縮固定すると、反射により拮抗筋である前鋸筋に、より出力制限がかかります。

これらによって肩峰アーチが狭小化を起こし、軽い負荷により、棘上筋や、肩峰下滑液包などを損傷しやすくなり、軽微な外力で捻挫を起こし易くなるのです。

④三角筋の過緊張

上記の問題やインナーマッスルの弱化が起こると、上腕骨が動きを補うため、過剰に運動しますが、その際にアウターマッスルの三角筋を優位に使ってしまいます。

起始と停止が近いインナーマッスルと違う三角筋が過剰に収縮すると、骨頭が関節窩に押し付けられますし、小さな転がり運動が起きずに収縮側に強く滑り運動が起き、アライメントも崩れます。

よく「つまった感じ」という主訴は三角筋が短縮固定していることが多いです。

本来はローテーターカフによって上腕骨頭が関節窩に対して求心位を保持していますが、ローテーターカフの機能不全によって代償として三角筋が過緊張することで求心位を保とうとするのです。なので、この場合三角筋を緩めるだけでは改善しきらないことが予測できます。また、三角筋が優位に働く状態になると僧帽筋上部線維と筋膜連結しているので、屈曲時に同時収縮して肩甲帯を挙上するように働いてしまいます。このような代償運動はよく見られます。僧帽筋と三角筋の連結はこちら

ただ単純に肩甲上腕関節が硬いから、肩甲骨でトリックモーションを起こしているだけではないことを知ると、またアプローチ方法が増えてくると思いますよ(^^)

ローテーターカフの機能不全

ローテーターカフとは、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つからなります。この4つが協調的に働くことで上腕骨頭を関節窩に対して良い位置をキープすることが出来ます。
これによって安定してスムーズな動作を実現しています。機能不全が起こると、上記したように三角筋などアウターマッスルによって代償してしまうので、骨頭の細かい動きができなくなり、サブラクセーションや亜急性捻挫を起こしやすくなってしまいます。

また、ローテーターカフには外旋筋群が多く、短縮すると内旋の制限がかかり、結果的に正常な伸展動作が出来なくなります。

肩甲下筋は短縮すると外旋の制限を起こします。

大胸筋の柔軟性低下

伸展・外旋に対して制限する作用を持っています。

また癒着すると骨頭を前方に転位させてしまいます。
大胸筋は3層に分かれているのでどの層が制限因子となっているか鑑別出来る必要があります。

大胸筋のIDストレッチ

鎖骨部:肩関節外転30°軽度外旋位で水平外転
胸骨部:肩関節外転90°軽度外旋位で水平外転
肋骨部:肩関節外転120°軽度外旋位で水平外転

各層の走行を理解してストレッチをすると鑑別とアプローチに使用できます。
特に制限因子となりやすいのは大胸筋腹部になります。

どうしても腕を上げないで作業を行う人間にとっては下部繊維が短やすいです。

骨の要素

上腕骨

屈曲時には上腕骨頭は外旋を伴いつつ、関節窩に対して前方へ転がり、後方へ滑り運動が起こります。

伸展時には上腕骨頭の内旋が伴い後方へ転がり、前方へ滑ります。

内旋時には主に肩甲上腕関節が主体となり動き外旋時は肩甲骨が主体となります。

また、骨頭の位置が、前や後ろに転位しアライメントがくずれている事が多いです。骨頭を面でやさしく保持し、どちらに動きにくいかを確認し、整復位置へ導き、エンドフィールや主訴、可動域の変化を評価しましょう。

好的反応が出る位置を特定することで、制限因子が具体的にイメージ出来ます。

また、整復動作を加えるときは、肩甲骨の関節面の角度を考慮し、慰安的に操作しましょう。

肩甲骨

屈曲時には肩甲骨は後傾、外転、外旋、上方回旋と立体的に動きます。まずは、静的アライメントを評価して、上腕骨と同様にどの方向へ導くか評価します。

静的アライメントは、左右を比較して
・内側縁上角-脊柱間の距離
・下角-脊柱間の距離
・上から見た水平面の肩甲骨の回旋度合い

これらを見ることで立体的に位置関係を捉えることができます。

アライメントを整えながら正しい動きを行います。

鎖骨

肩関節屈曲時に鎖骨は胸鎖関節を軸に後方回旋し、鎖骨肩峰端が頭側へ変位します。鎖骨も同様に動きにくい方向を評価し、制限因子を予測します。

・胸鎖乳突筋
・鎖骨下筋
・大胸筋鎖骨部
・三角筋前部線が癒着すると鎖骨が制限されやすいです。

脊柱・頭蓋骨・肋骨

脊柱と肋骨、頭蓋骨も大きな要因になりますが、ここを掘り下げるとかなり長くなるので 、割愛します。

後に脊椎や頭蓋骨の記事を書くので、それを読んで肩関節の治療にも組み込んでみてくださいね!

取りあえず関係が深いことを知っておいて下さい。

最後に

どうでしょうか?

少し引き出しが増えたなら嬉しいです。

他の記事や筋膜リリースと照らし合わせて覚えてみてくださいね(^^)

屈曲・外転・外旋と伸展・内転・内旋が連動しやすい事を理解し

筋肉を徒手的に矯正して反応を見て上腕骨、鎖骨、肩甲骨それぞれ制限がある方向も評価し整復を行い骨を転位させる筋膜の癒着もリリースします。

筋肉と骨それぞれの制限因子を考えていき、制限因子が共通するものはなにかを照らし合わせクリニカルリーズニングします。

僕自身も、このように頭の中でパズルを組み立てて治療を楽しんでいます!

最後までお読みいただきありがとうございました。

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