膝関節の傷みや損傷の原因をどれだけ挙げられますか?
変形性膝関節症や半月板損傷など整骨院でも膝関節の痛みは多く診られると思います。
全ての患者さんに同じように四頭筋訓練やハムストリングのストレッチを行っているだけで良くなっていかない。と悩んでいませんか?
私も昔はそうでした。
本当の治療を行うには、その人それぞれの体に合わせた仮説・検証を繰り返して原因となる組織を特定していく作業が大切です。
そういった悩みを持つ柔整師のために、整骨院でよく見ることのあるパターンを中心に記事を書いてみます。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
そもそも柔道整復師の先生は力任せにマッサージをしたり間違った関節可動域運動を行っている事を多く見かけます。
よくある誤りが、筋肉が固まったから運動に制限が起こっているという考え方です。
勿論そのパターンもありますが実際は逆が多く、間違った運動パターンで関節に偏ったストレスがかかり、軟部組織や骨が変化し可動域制限が起こったり軽い負荷で損傷しやすい関節になってしまう。という流れが多いです。
ですから変形性膝関節症で骨の変形が起こったから痛いという考え方も良くないです。
OAがあっても痛みがない方もいますし、間違った運動パターンが繰り返され骨が変形して結果的に痛くなるわけで、骨の変形を手術で改善しても痛みが改善しきらない人も多く見かけます。
つまり、可動域制限や痛みを改善するために骨の変形を手術で治し、それで改善されないのは仕方がないといった考えは間違いで、骨の変形を起こしてしまった運動パターンの異常を改善する事が大事です。
関節の構造に沿った正しい運動パターンを再学習させ、関節の構造に逆らわない正しい整復を行えるハンドリングが重要となります。
そのために、まず制限となる部位を整えていく必要があります。
膝関節に可動域制限があるとどうなる?
膝関節の屈曲に制限が起こると、日常生活においてかなり支障が出ます。
正座はもちろん座ったり立ち上がったりや階段の上り下り、自転車をこいだり、入浴動作、など様々な場面で困ります。
膝関節伸展に制限が起こると、膝関節は不安定になります。
膝関節が安定性するためには完全伸展出来る必要があり、わずか5°でも伸展制限があると、歩く度に膝関節にストレスがかかり、半月板や靭帯に負荷が蓄積し変形性膝関節症にも繋がります。
そうなると膝関節の動きを他の関節で代償するので、足関節痛や腰痛に繋がったりもします。
膝関節の可動域
膝関節の正常な可動域の範囲は、0~130°です。
伸展時のエンドフィールは骨性に制限され、屈曲時のエンドフィールは大腿と下腿の軟部組織性の制限を感じます。
つまり、これ以外のエンドフィール、または、正常な可動域に達さない域で制限がある場合は何らかの原因によって可動域が制限されています。
膝関節の可動域制限の原因
筋肉からの影響
①大腿四頭筋の柔軟性低下・過緊張
膝関節の伸展作用のある筋肉なので、柔軟性が低下すると単純に屈曲制限を起こします。
ワンランク上の考え方をするには、大腿四頭筋の4つの筋の内、どれが最も制限因子となっているか特定する事です。
まず静的なアライメントから膝蓋骨がどの方向、大腿骨に対し脛骨はどの方向に偏位しどの方向に動きにくいかを確認し予測します。
膝蓋骨が外側に偏位し内側に動きにくく、脛骨も外側に偏位している場合であれば、外側方向へ引かれており、外側広筋による制限が大きいことが予測できます。
膝関節の屈曲に合わせて、各筋を触診したり、IDストレッチで四頭筋を別々に伸ばし柔軟性を評価することができます。
また、腸脛靭帯や大腿二頭筋と癒着を起こしている事もあるので、外側広筋単体の柔軟性だけでなく癒着がないかも評価してみましょう。
勿論、筋肉の柔軟性低下は1つとは限らないので複数のことも視野に入れ、一つの筋肉に絞らなくてもいいです。
外側広筋は腸脛靭帯や大腿骨中下3分の1部では大腿二頭筋と隣り合わせです。
内側の筋群(内転筋群、腸腰筋など)の弱化があると、外側の筋群で姿勢を制御するようになるので、それらの筋は外側への姿勢の制御の役割をします。
そうなると、膝関節の屈曲、伸展といった働きが弱まり、腸脛靭帯と外側広筋の間や二頭筋との間で癒着が生じることがあります。
ここで癒着が起こると、作用が反対の筋同士なので膝関節の動きが悪くなるのはもちろん、下腿を外旋方向へ引っ張る力が働きます。
それにより、膝関節屈曲時に、下腿の内旋が起こりずらくなり、屈曲制限の原因になる事があります。
また、膝が悪い方には、股関節が使えてなくて立ち座りの際に膝を前に出す方が多いです。
そういう方の大腿四頭筋は、伸長しながら収縮し、綱引きのようにピーンと過緊張した状態になってしまいます。そうなると膝の屈曲角度も増して緩み位置で膝を使い関節にも負荷が、大きくかかります。結果ハムストリングも固くなるので、大腿四頭筋が伸長固定しないようにリリースをかけたり、股関節へのアプローチも必要になる方も多いです。
②ハムストリングスの柔軟性低下
ハムストリングスの柔軟性が低下すると、大腿四頭筋の働きが悪くなります。そして下腿は後方へ変位します。
下腿が後方へ変位すると、伸展時の前方移動を直接的に制限しますし、膝関節の屈曲に伴っての下腿の後方移動が過剰に起こり、関節面が適合せず半月板に負担がかかったり後方でインピンジメントを起こします。
下腿が後方へ変位すると、膝関節の軸が崩れ、周りの筋群も安定性を代償しようと緊張を高めてしまいます。
これによってアライメントが崩れた状態で保持され、悪循環へと陥ります。
膝を軽度屈曲位で使っている人や過伸展位だけど下腿上端は後方へ偏位してる人はハムストリングの柔軟性をチェックしましょう。
関節アライメントを見る上で、拮抗筋と主動作筋のバランスを見ておくことはかなり重要だと思います。
ハムストリングが硬くなっても外側広筋や腸脛靭帯と癒着する事は多いです。
癒着を剥がし、リリースやストレッチで滑走性を良くしましょう。
③大内転筋の筋力低下
柔道整復師は膝の痛みは大腿四頭筋の筋力低下と考える人がかなり多い気がします。
勿論、四頭筋訓練はエビデンスがありますし、不必要な筋肉はないのでとても大事ですが、大腿四頭筋ばかりに目を向けると良くないです。
アウターマッスルである大腿直筋は元々緊張しやすいですし、外側広筋は短縮固定している方が多いです。
また、大腿四頭筋は歩行の際には、ブレーキの役割を持っていて、大腿四頭筋ばかりを鍛えると歩行がスムーズにいかなくなります。
歩行時に加速の役割をするのは、殿筋やハムストリングス、そして大内転筋です。
この中でも加速、左右のブレの制限、歩行時のスクリューホームムーブメントのために大腿を内旋させる機能がある大内転筋はとても大切です。
体幹を安定させるインナーマッスルとも筋膜連結していますし、最新機械工学を人間に当てはめた際、イスからの起立の時も大内転筋がかなり大切な役割を担うようです。
筋骨格系は物理的要素が強く、機械工学により運動学は解明されています。
大内転筋は半腱・半膜様筋と癒着し出力不全に陥ったり、外側広筋や大腿筋膜張筋が短縮固定していると出力が制限されてしまいます。それぞれの癒着を剥がし、滑走性を出してトレーニングを行っていきましょう。
④腓腹筋の柔軟性低下
足関節底屈筋である腓腹筋は二関節性筋で膝関節にもまたがっているため、膝関節にも影響を与えます。
短縮固定を起こすと伸展制限が起こり、伸長固定すると弛緩しにくくなり屈曲制限の因子にもなり、弛緩できないとつまったように感じられます。
また腓腹筋の起始部近くの腱はハムストリングの停止部と交差していて摩擦により炎症を起こしたり癒着が起きやすい部位です。
摩擦が強いと滑液包も炎症を起こしベーカー嚢腫となることもあります。
緩める際はアキレス腱周囲も癒着しやすいのでアプローチを忘れずに!
⑤大腿筋膜張筋・腸脛靭帯の柔軟性低下
大腿筋膜張筋から腸脛靭帯へと移行し、腓骨頭へ付着します。
ここの柔軟性が低下すると、下腿が外側、外旋方向へ引っ張られ、屈曲に伴う内旋運動が不十分となり、屈曲の制限因子となります。
さらに、腸脛靭帯の深層には外側広筋があり、両者の間で癒着が生じやすいです。
癒着が生じるとより下腿の偏位やX脚を助長しますので評価しておくべき部位です。
⑥鵞足での癒着
縫工筋、半腱様筋、半膜様筋からなる鵞足は3つの筋肉が重なっているため、癒着を起こしやすいです。
ここが癒着すると下腿に外旋制限がかかり、スクリューホームムーブメントが破綻します また屈筋なので直接的に膝関節の伸展制限因子となります。
⑦膝窩筋の機能不全・柔軟性低下
膝窩筋は膝関節におけるインナーマッスルですので、膝関節の安定性に関与します。
膝窩筋が正常に機能しているから、大腿四頭筋やハムストリングスといったアスターマッスルによって膝関節の大きな屈伸運動を行うことがスムーズになります。
膝窩筋が癒着や過緊張により柔軟性低下が起こると外旋に制限が出て伸展時の制限やスクリューホームムーブメントも破綻します。
膝窩筋が機能不全を起こすと、転がり滑り運動のバランスが崩れて関節を痛めたり、本来動きを作るアウターマッスルが膝関節の安定化を図り過緊張をおこし、可動域制限へとつながります。
膝窩筋はアナトミートレインのディープフロントラインに含まれていて、このラインが弱ると、アウターマッスルによって体の安定化、姿勢制御を担うので、固くてぎこちない動きになります。
膝関節でいうと、下肢は外旋、膝関節は内反し、外側面の筋肉でバランスをとり、膝窩筋は伸張されますので、より筋出力が制限されるアライメントになってしまいます。
膝窩筋は腓腹筋外側頭の深部、腓骨頭の後面内側で触れることができます。
腓腹筋を腓骨からはがし、膝窩筋をリリースして滑走性を出してから膝関節軽度屈曲位で下腿の内旋運動を反復し、膝窩筋の運動を学習させ出力を上げましょう。
膝窩筋の筋出力が得られると、アウターマッスルの緊張も軽減し、関節の動きもよりスムーズになります。
骨からの影響
①膝蓋大腿関節(PFJ)のアライメント・可動性
膝蓋骨は他の骨とガチッと連結してないので、周囲の筋肉、靭帯によってアライメントが左右されます。
膝蓋骨を指で挟むようにつかみ、上下左右どちらに動きにくいか・動かしたときに痛みが増減するか。
膝関節の屈曲、伸展に伴って上下左右の偏りがなく滑走しているか。
それらを評価することで膝蓋骨自体のアライメントを整えられますし、偏位させる筋肉を特定出来るので筋膜リリースやエクササイズも絞ることが出来ます。
可動性がない場合は、大腿骨から浮かすように牽引しながらモビリーゼーションします。
②大腿脛骨関節(FTJ)のアライメント
脛骨に対する大腿骨のポジション・大腿骨に対する脛骨のポジションを評価します。
まず立位での下肢の姿勢評価をします。
ミクリッツラインを指標に膝のアライメントを評価します。
次に仰向けで膝の屈伸を行い、動きの分析を行います。
大腿骨がミクリッツライン上にあるか内転・外転していないか、どちらかに回旋していないか。
脛骨を把握し、どちらに動きにくいか、水平面上でどちらに回旋しにくいか。
それらを評価することでFTJ自体のアライメントを整えられますし、偏位させる筋肉を特定出来るので筋膜リリースやエクササイズも絞ることが出来ます。
また、大腿骨のアライメントは股関節の影響が大きいです。
膝関節単独で記事を書いていますが、良いアライメントを維持するには、必ずといっていいほど股関節との運動連鎖が必要です。運動連鎖によってハムストリングの柔軟性やインナーマッスル強化にもなるので複数の問題が解決することが多いです。
③脛腓関節のアライメント
膝関節の動きに直接関与はしていませんが、腓骨頭のアライメントや可動性は周りの筋肉や足関節やFTJのアライメントに影響します。
柔軟性が低下しやすい大腿二頭筋、外側広筋、腸脛靭帯などの影響で腓骨の可動性は低下しやすいです。
またX脚かO脚かによっても、アライメントのズレ方は変わりやすいので注意が必要です。
脛骨と相対的に矯正するのか、脛骨についていけるように矯正するのか、転位と整復時の反応を見ながら整えます。
軟部組織からの影響
①膝蓋上包の柔軟性低下
膝蓋上包は大腿四頭筋腱の深部にあり、滑走時に摩擦軽減作用の役割があります。
四頭筋を伸長固定しながら使っている人などに多いですが、過緊張状態で摩擦が多いと直接的に炎症を起こし腫れることもありますし 、軽微な炎症を起こした膝蓋上包は大腿四頭筋腱と癒着し、膝蓋上包自体の柔軟性が低下してしまい、パテラが上方に転位したり膝の屈曲時に膝蓋上包が伸張されず膝の屈曲に対しての制限の原因になってしまいます。
膝蓋上包を両手で両側から挟み、上下左右に可動性を作りましょう。
②膝蓋靭帯・膝蓋下脂肪体の柔軟性低下
膝蓋上包と似ていますが、膝蓋靭帯が周りの組織と癒着したり深層にある膝蓋下脂肪体と癒着したり膝蓋下脂肪体が周りの組織と癒着したりします。
パテラが下へ転位しやすくなります。
同様に上下、左右によく可動性を作りましょう。
おすすめの本
最後に
・PFJ・FTJの転位
・大腿四頭筋とハムストリングスのバランス、筋緊張
まずは上記の2つをしっかり評価出来るようにします。
整復・施術しながら、原因となる部位を候補に挙げ共通する部分を探しながらアプローチしていきます。
共通する部分は各原因に対して影響を与えているので、そこを見つけだし正しくアプローチ出来ると根本からの改善につながります。
以前書いたスクリューホームムーブメントと下腿外旋症候群の記事を合わせて治療すると膝関節の整復はかなり上達すると思います。
また根本治療、再発予防のためには膝関節のみで考えず、股関節・膝関節・足関節の運動連鎖を忘れずに治療する事が大事です。
最後までお読みいただきありがとうございました。