肩関節のアプローチに活かせる記事を以前書きましたが、肩関節の治療をスムーズに行うには肩甲骨を上手に整復するテクニックが必須です。
肩甲骨を正しく矯正しながら上腕骨を整復したり、カフエクササイズを行うなど臨床で実際に活かせていますか?
出来ていない方は是非読んでみてくださいね(^^)
もくじ
肩甲骨の可動性は大切
上腕骨が動くときには肩甲骨が連動しています。上腕骨のみの動きでは大きく動くことはできませんし、上腕骨が肩甲骨から逸脱する力が強くて肩関節を痛めてしまいます。
上肢の動きに応じて肩甲骨が動くことはとても大切なのです!!
肩甲上腕リズムは有名なので知っている先生も多いと思います!
簡単に説明しますと、肩関節を外転した際に肩甲上腕関節と肩甲骨が連動するのですが、その時の可動割合のことです。
詳しくはこちら
また臼蓋上腕リズムといい、上腕骨の動きに対して肩甲骨が向きを変えたり、肩甲骨の関節窩の中で骨頭が滑りや転がり運動により関節内で動きが適合するため動きも起きています。
これらのような上腕骨と肩甲骨の関係が肩関節の動きにはとても大切です。
なぜ大切なのかと言うと、肩関節の関節運動で肩甲上腕関節だけで動くとどうなるか考えてみてください。
本来は、上腕骨の動きに対して肩甲骨が動いてくれるため、関節のアライメントは一定のバランスが保たれ関節周囲の軟部組織にも負担がかからないようになっています。
しかし、肩甲骨が動かないと上腕骨頭は関節窩から逸脱する方向へ動くことになり、それを制限するための関節包や靭帯、ローテーターカフなどにも負担がかかります。
肩の痛みは、正しい運動が破綻しているせいで負担が過剰にかかりすぎて炎症や損傷がおきやすくなっていることが多いです。
まずは、動的アライメントが適合し関節が逸脱しないように考えてアプローチしてみましょう。
肩甲骨の動き
肩甲骨は胸郭の上を滑り挙上↔️下制・前傾↔️後傾・内転↔️外転、上方回旋↔️下方回旋、内旋↔️外旋あらゆる方向へ動くことができます。(教科書的には内旋↔️外旋が記載されていませんがとても大切です)
各方向へ制限なく動けることが大切です。
各運動方向時に働く代表的な筋肉を挙げていきます。
挙上 | 僧帽筋上部、肩甲挙筋 |
下制 | 僧帽筋下部、小胸筋、広背筋 |
内転 | 僧帽筋中部、大・小菱形筋 |
外転 | 前鋸筋、小胸筋 |
上方回旋 | 僧帽筋上・中・下部、前鋸筋 |
下方回旋 | 肩甲挙筋、大・小菱形筋、小胸、広背筋 |
前傾 | 小胸筋、大胸筋肋骨部 |
後傾 | 僧帽筋上・中・下部 |
内旋 | 小胸筋、大・小菱形筋、大胸筋 |
外旋 | 僧帽筋上・中・下部、前鋸筋 |
各方向へ動かしてみて、制限方向を見つけることが大事です。
制限方向が定まったら拮抗する筋肉を触診しながら抵抗感を感じたり、リリースを加えると動きが変わるかを確認し制限因子を絞ります。
例えば外転方向に制限がある場合、僧帽筋や菱形筋による制限の可能性があります。
小菱形筋の繊維を触診すると、硬結があり外転した際にテンションが他の筋肉より高い場合、原因である可能性が考えらます。
狙いを定めたら起始と停止が離れ易くなるように筋肉の長軸方向に対しリリースを加えたり、並走している筋肉との癒着を剥がすように横断するようにリリースを加えます。リリース後に外転への可動域が増したり抵抗が減ったならば、小菱形筋による制限だったと言えます。
このように、まずはざっくりと制限に予測をたて、治療の結果も確認し、あっていたのか確認していく行程を繰り返します。
いまの例で真逆の反応が出てしまったとします。
その場合は小菱形筋が伸長固定されていることによりテンションが高くなっていることも考えられ、場合によっては拮抗筋である前鋸筋が短縮していてすでに肩甲骨が外転していてそれ以上は外転出来なくなっている事も考えられます。
その際はカウンターストレインの要領で起始と停止が近づき弛緩するように前鋸筋をリリース、ストレッチして小菱形筋を緩ませてから外転がしやすくなるか検証するというのも一つの考えでしょう。
ちなみに肩関節の屈曲に対して肩甲骨は上方回旋、後傾、外旋します。
その動きを阻害してしまう筋肉に関しての記事をこちらに書いてあるので興味のある方はどうぞ!
肩甲骨とローテーターカフ
肩甲骨を動かす筋肉は上記した物がメインですが、上腕骨の動きに対応し関節窩の向きを微妙に変えてくれる働きがあるのがローテーターカフによる反作用です。
トレーニングも大事ですが、まずローテーターカフが滑走しやすいように癒着をはがし、出力しやすくしてあげましょう。
触診や検査により癒着部位を想定し、リリースを加えて滑走性を回復させましょう。
ローテーターカフの検査についてはこちら。
例えば肩関節屈曲時に、後面にタイトネスがあるとします。
触診で評価していき、小円筋と棘下筋の隣接部に硬結があったら、小円筋と棘下筋をリリースし滑走性を上げます。
柔軟性がでたら、リリースかけながら自動運動を行わせて(私はこれをリリースウィズムーブメントと呼んでいます)、より滑走性を出しながら他の筋肉の出力を妨げないようにします。
運動もさせる事で少しずつ癒着が無くなっていきます。
肩甲骨のアライメント
まず姿勢や静的アライメントを評価しそれを元に動作分析や動的アライメントも評価して、アライメントを正す整復を行ない好的反応を検出できるか再評価します。
アライメントを見極めるためには
①左右の肩甲骨内側縁
背骨からの距離を比べて左右の内↔️外転を評価します。
②左右の肩峰の位置
上から左右の肩峰の位置で内↔️外旋を評価します。
③肩甲棘の傾き
背面から肩甲棘の傾きを見て上↔️下方回旋を評価します。
④左右の下角の位置
左右の下角の位置で挙上↔️下制を評価します。
⑤肩甲骨の動き方
肩峰・肩甲棘の内側・下角を触れながら肩関節を動かせ、正しく動けてるか評価します。
これらの位置を視診・触診し肩甲骨のアライメントを整えたり可動しにくい方向への動きを回復させます。
またどの筋肉に制限が出てるかも想定しストレッチやリリース、エクササイズを処方します。
体の傾きにより、代償的にアライメント違って見えたりアライメントを正した位置からの運動パターンがその人の体に合っていなかったりすることもありますので、反応もみながら正解を見つけることが大事です。
肩甲骨アライメントと体幹との関係
肩甲骨は胸郭の上に乗っかっているだけで解剖学的な関節構造はしていません。
軟部組織のみによってアライメントが決定されているので、胸郭や胸椎や骨盤の転位によりアライメントが変化してしまいます。
パッと見で肩や肩甲骨の位置に左右差が認められても体幹のバランスを矯正すると肩甲骨のアライメントも変化する事があります。
なので胸郭・脊椎・骨盤のアライメントも視野に入れることが必要です。
場合によっては体幹を先に矯正する必要があります。
鎖骨の連動
肩甲骨が動く際は、鎖骨の動きが必須となります。
肩甲骨のモビリゼーションも胸鎖関節を支点に鎖骨と一緒に肩甲骨を可動させましょう。
鎖骨は肩関節外転30°時に挙上約15°、回旋0°で肩鎖関節優位に動きます。
肩関節外転90°時に鎖骨の挙上30°、回旋0°で胸鎖関節優位に動きます。
肩関節外転180°時に鎖骨の挙上60°、回旋45°で肩鎖関節優位に動きます。
90°までは鎖骨の挙上しか起こらず、それ以降で回旋の動きが起こってきます。
90°より下で制限があるときは鎖骨の挙上に、90°より上の角度で制限がある場合は鎖骨の回旋に目を向けてみることも大切です。
またハイアークサインといって、180°近くで痛む場合は肩鎖関節にトラブルがあることを示唆している事があるので注視してみてください。
鎖骨を動かす筋肉
鎖骨のアライメントや制限を発見したらアライメントやDPを検知しながら整復する方向を定めましょう。
方向が決まったら解除するための筋肉も考慮しましょう。
鎖骨を動かす代表的な筋
・胸鎖乳突筋
・大胸筋鎖骨部
・三角筋前部
・僧帽筋上部繊維
・鎖骨下筋
鎖骨の肩鎖側か胸鎖側か、上方に持ち上げるのか、下方に押し下げるのかを見極めましょう。
例えば昔転倒をして、肩鎖関節に亜脱臼をしている方が肩関節インピンジメントを発症した際に、肩甲骨アライメントは下制・下方回旋しているが鎖骨は上方へ転位していてペインフルアークサインとハイアークサインが陽性だったとします。
肩甲骨上方回旋・挙上によりDPを検出し小胸筋もリリースしたがハイアークサインが残り鎖骨を上方から下方へ押圧し肩鎖を整復すると痛みが軽減し外転時痛がなくなったのならば、僧帽筋と胸鎖乳突胸をリリースして、もう一度反応を見るといった流れになるかもしれません。
なんとなくおわかりでしょうか?
おすすめの本
関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション(上肢・体幹)改訂第2版
最後に
肩関節の痛みの原因にアプローチするためには肩甲骨の機能を理解しておく必要があります。
また、肩甲骨を正しく機能させるためには周囲の筋肉や連結している関節や筋膜、骨盤や脊柱も正しく機能させることも必要になることがあります。
まずは肩甲骨の静的アライメント、動的アライメント肩甲骨を動かす筋肉などの評価・アプローチを出来る知識を覚え技術を身に付けましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。