マリガンコンセプトを用いた関節整復

私は色々な理学療法・治療法を学んできましたが、そのなかでも脊椎や四肢の関節の治療にはマリガンコンセプト (Mulligan Concept )を応用し、関節の位置異常の整復を行う事が多々あります。

柔道整復師たるもの、関節の矯正は出来てなんぼですね。

マッサージでリラグゼーションするのではなく、小捻挫をしっかり整復し、痛みや可動域を改善させれると患者さんも喜んでくれますし、遣り甲斐を感じれるようになります。

カイロプラクティックやモビリゼーション、そして日本生まれの関節矯正術である柔道整復術。

亜急性の捻挫をちゃんと理解し、しっかりと本当に治療できる柔道整復師になりましょう。

そしてエビデンスのある、理学療法を組み込んで柔道整復をさらに飛躍させる、そのためにマリガンコンセプトはとてもおすすめです。

マリガンコンセプト の歴史

Brian Mulligan は1951年に理学療法士になりました。

1950年代後半、ヨーロッパで Kaltenborn を学んだ Paris や McKenzie から徒手療法を習いました。

そして、1970年代に、Kaltenborn の四肢のコースに参加し、四肢の関節モビライゼーションを学びました。

1984年、Mulligan はマリガンコンセプトの最大の特徴である MWM (Moblisation with Movement)をあみだしました。

マリガンはスポーツで指を損傷し浮腫、疼痛、可動域制限が残存していた患者に、超音波療法、牽引、内側滑り・外側滑りのモビリゼーションを実施していましたが、効果がありませんでした。

ある日マリガン は、内側滑りを行いながら患者に指の屈曲・伸展の自動運動を指示しました。すると、疼痛が消え可動域も改善しました。これが、MWM: Moblisation with Movement の始まりです。

1986年に、マリガンコンセプトのコースが初めて開催され、1989年にManual Therapy NAGS, SNAGS, MWMS etc を出版しました。

1990年、Mulligan は講義をしました。その時講義を受けていたUK出身の Toby Hall はMulligan の講義に感動し Mulligan Concept の効果を証明した Evidence をたくさん執筆し、Mulligan Teacher(マリガンコンセプトを教えることを正式に認められ講師)になり、日本、オーストラリアで、Mulligan Concept を講義しています。

Toby Hall は神経モビリーゼーションの第一人者です。

マリガンは1968年にニュージーランド徒手的理学療法士協会を設立、1988年、同協会の終身会員。

1996年、ニュージーランド理学療法士協会の名誉会員。

1998年、ニュージーランド理学療法学会の終身会員。

ニュージーランドは自然療法や理学療法がとても、進んでいますがマリガンがかなり貢献してるといっても過言ではないです。

マリガンコンセプトの基本原則

マリガンコンセプトの原則は柔道整復にも応用出来ます。覚えておくと他の治療法にも応用出来ます。

基本原則1 PILL

PILL とは Pain free(疼痛なし)、Instant result(即時効果)、Long Lasting(持続する)の頭文字をとった略語です。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

Pain free(疼痛なし)

マリガンコンセプトのテクニックを用いている最中に痛みはでてはいけません。

疼痛が出現した場合、マリガンコンセプトの適用ではない、もしくはハンドリングが正しくない。

…というのが原則ですが、Mark Oliver(Mulligan teacherの1人)は、ROMも疼痛も変わらない場合は適用ではない、ROMが変化し少しの疼痛が残る場合は適用の場合もある、ROMが改善し疼痛もない場合は適用である、と述べています。

急性の関節損傷等では軽い痛みを伴ってしまう事も多いので患者・症状に合わせた処方が必要ですね。

1つ言えることは強い痛みを与えてはいけないということです。

昔ながらの整骨院には可動域拡大に対して力任せでグイグイやるのがいいと思っている先生も多いですが大きな間違いです。

Instant result(即時効果)

マリガンコンセプトを正しく処方したときは即時に効果が現れます。

例えば、60°で疼痛が出現し160°以上は動かせない時、マリガンコンセプトのテクニック(以下、マリガン)を行った結果、120°で疼痛が出現した場合、Instant result と考えられる。

ROMが健側と比べ10%低下していて、マリガンを行った結果、左右差がなくなった場合、Instant result と考えられます。

また、ROMだけでなく、マリガンを行った結果、筋力が改善した場合も、Instant result と考えられます。

日本で行われたマリガンコンセプトの講義でも、参加者から同様の質問がありました。

中には「膝関節屈曲120°がマリガンを行って125°になった場合は Instant result と考えられるのか?」という細かい質問もありました。

Instant result というのは、ROM だけでなく、疼痛、筋力、バランス、また、動作などを含めて考えなくてはいけません。

私的には、マリガンは 運動時痛に対してとても効果的な徒手療法だと思います。運動時痛による可動域制限、運動時痛による筋力低下、運動時痛による不良動作、などですね。

Long lasting(長く続く)

マリガンを行って得た効果が長く続く必要があります。

患者さんの体をさわっていると知覚や圧痛により、運動時痛が一時的に鈍くなることがあります。

続けて痛みが軽減したまま動作を取れるときは確りと関節が矯正されスムーズに動いていると思っていいでしょう。

またマリガンコンセプトの場合、効果を持続するためのホームエクササイズを重要視しています。また、効果を持続させるためにテーピングも用いています。

PILL 反応がない場合、マリガンの適用ではありません。

また、疼痛が出現している場合、セラピストはテクニック的要素も考えなくてはいけません。

加えている力、加えている力の方向、加えている力の位置などです。

これらを微調整しても疼痛が出現している場合、PILL反応がない、と考えていいのではないでしょうか。

基本原則2CROCKS

Mulligan は、MWM(Mobilisation with movement)をスムーズに行うためには、患者中心の治療、患者の協力が必要であるということを、CROCKS を用いて表現しました。

これらも柔道整復術に応用出来るので頭に入れておきましょう。

CROCKS は、以下の単語の頭文字をとったものです。

C:Contraindications 禁忌

徒手療法の禁忌です。徒手療法の禁忌に当てはまるものは、マリガンコンセプトも禁忌です。また、Mulligan は、「PILL反応を得られない場合、マリガンコンセプトは禁忌である」と述べています。

R:Repetitions 繰り返す

マリガンコンセプトが適用と考えられた場合、MWMは数回続けて行います。初回の場合は、治療後に疼痛が出現する可能性を考慮し、3回程度、慣れてきたら6回~10回程度行います。

エクササイズとしてそれらを3セットほど続けて行うこともあります。

O:Overpressure オーバープレッシャー

即時効果、持続効果をだすためには、最終可動域からのオーバープレッシャーが必要です。

オーバープレッシャーは術者や患者自身の手を用いておこないます。

私は自家筋力で自動運動や負荷をかけ抵抗運動で行うこともあります。

負担をかけるので必ず痛みがない状態でオーバープレッシャーをかけます。

C:Communication コミュニケーション

MWM は患者自身が自動運動を行う必要があります。患者さんはMWMの方法、効果を理解し、治療に参加、ホームエクササイズを実践する必要があります。セラピストは患者さんと協力して、治療していくために、的確なコミュニケーションをとり相手に理解してもらう必要があります。

K:Knowledge 知識

病態に関する知識、治療する関節面、バイオメカニクス、解剖学などの知識です。

また、基本的な関節モビリゼーションに関する知識も必要になってきます。

S:Sustain and Sense 力を持続&感じる

MWMを行っている間(スタートポージションから開始して、スタートポジションに戻るまで)は、力を加え続ける必要があります(Sustain)。また、自分の指で関節内で何が起きているか感じ取る必要があります(Sense)。

CROCKS に書いてあることは、他の徒手療法にも共通することがあると思います。

柔道整復師として、覚えておいて損はないです。

マリガンコンセプトの特徴

マリガンコンセプトはいくつかの特徴があります。

  • 治療的診断(評価と治療が一体化)

    マリガンの著書を読む限りだと”評価=治療、治療してみて効果があれば原因を確定出来る”と考えられます。
    しかし、マリガンコンセプト 講師も、自動運動、副運動検査などを行い問題となっている分節を評価してからマリガンコンセプトを実践すると述べています。事前に的を絞っておくという事です。

  • Positional fault

    マリガンコンセプトの治療概念の1つに、”Positional fault (位置異常)”というのがあります。
    関節の位置異常が生じることによって、運動時に組織に負担が増大し炎症を起こしたり、疼痛を誘発する、という考えです。これに反する考え方もありますが、マリガンコンセプトでは、”Positional fault”というのが1つの基本軸になっています。この概念を理解すると柔道整復術を色んな関節に行え、それにより確りと効果を出せます。カイロプラクティックでいう、サブラクセーションに近い概念です。

  • Mobilisation with movment

    マリガンコンセプト 最大の特徴といえると思います。
    関節モビリィゼーションと自動運動を同時に行います。
    また、”側方滑り”があります。

  • 荷重下でアプローチ

    徒手療法は非荷重下(背臥位・腹臥位・側臥位)で行われることが多いですが、マリガンコンセプトの場合、荷重下(四つ這い、座位、立位)でも治療を行います。これにより、実際に体を使う状態に近いポジションで整復を行うことにより、高い効果や持続性を得られます。

  • ベルトを使用

    身体を固定するため、また、力を加えるためにベルトを用います。ベルトの使用はセラピストの負担を減らします。

  • グレード(徒手矯正の強さの程度)がない

    多くの徒手療法では、グレードシステムを用いていますが、マリガンコンセプトにはグレードはありません。グレードがないいとどのくらいの力を加えるのか分かりにくいですが私的には不必要に強くするのは良くないので基本的には弱く、良い反応が出たり転位が強い場合は必要に応じてある程度の圧をいれます。

  • 運動時痛に効果あり。

    関節の位置異常からくる運動痛には高い効果を出します。そして、体の痛みは筋肉ではなく関節によるものが非常に多いことを知って貰える手技です。

  • ホームエクササイズも重要視している。

    運動痛に高い効果を出しますが、良いポジション、良い運動を記憶するまでは症状が戻ってしまうことがあります。再発を予防するためのホームエクササイズを患者さんへ指導することを大切にしています。

5つのテクニック

マリガンコンセプトには4つのテクニックがあります。

1. MWM’s(Mobilisation With Movement)

関節モビリィゼーションと自動運動を同時に行います。

捻挫を整復しながら自動運動を行うわけですね。

脊椎、四肢に対するテクニックがあります。

肘関節に対するMWMは エビデンスが高く、多くの書籍でも紹介されています。

私も色々な患者さんに対して MWM を実施してきましたが、マリガンコンセプトの原則(PILL, CROCKS)に適応する患者さんに対しては、高い効果を出しています。

2. SNAGS(Sustained Natural Apophyseal Glide)

MWM の脊椎バージョンです。

私はこの方法を好んで使います。

治療部位に力を加えて、facetjointや椎間板を整復して自動運動を行います。

ポイントは、スタート肢位から自動運動を行いスタート肢位に戻るまで力を加え続けることです。

ベルトで体を固定して行うこともあります。

腰椎捻挫や椎間関節炎、寝違いや頚椎症、ヘルニア等脊椎疾患に効果的です。

脊椎は小さな関節なのでマスターするのには時間がかかり、ミリ単位の矯正で効果が大きく変わります。

3. NAGS(Natural Apophyseal Glide)

荷重下で行う、頚椎に対する関節モビリィゼーションです。

頭部前方位の姿勢で、頚椎過伸展している患者さんに対してはとても効果のある方法だと思います。

4.R・NAGS   (ReverseNatural Apophyseal Glide)

荷重下で行う、上部胸椎に対する関節モビリィゼーションです。

頭部前方位の姿勢で、胸椎過屈曲している患者さんに対してはとても効果のある方法だと思います。

5. PRP’s(Pain Release Phenomenon)

”圧迫”を用いて、疼痛を軽減させる方法です。

マリガンコンセプトの中で、唯一、”圧迫”を用いるテクニックです。

オススメの本

さいごに

マリガンコンセプト、日本ではまだ馴染みのない徒手療法ですが、世界的にはとても有名な徒手療法です。

マリガン は自身の著書で、”これらの技術は Kaltenborn や McKenzie で紹介されている技術です” と述べています。また、彼は、こういう場合は McKenzie の方がいい、と言ったり、マリガンコンセプトが有効でない場合は他のメソッドを行うべきだとはっきり述べています。

こういった柔軟な姿勢に共感を感じます。

1つの治療法だけでは全ての患者さんを治すことはできません。また、徒手療法は治療方法の1つだということも忘れてはいけないですよね。

ただこういった視野の広い治療家の発想から出来たマリガンコンセプトは

私にとっても、とても大きな引出しになりました。

これから治療の引出しを増やしたい方柔道整復師の先生や、モビリゼーションや副運動でただ骨を動かしているだけのセラピストには、とてもオススメの徒手療法だと思います。

また、関節矯正の奥深さを知り、改めて柔道整復術の本当の素晴らしさを再認識した治療法でした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

シェアする

フォローする